歯科の豆知識

本当はとっても怖い歯周病

■歯周病ってどんな病気?

歯周病は、細菌のかたまりであるプラークが歯と歯ぐきの境目にたまることによって発症します。このプラークに潜む歯周病菌の出す毒素が、歯の周りの組織に炎症を起こして、歯を支える骨(歯槽骨)を壊してしまうのです。そして最後には歯が抜けおちてしまう病気です。

日本人の40歳以上の約8割がこの病気にかかっています。あまり知られていませんが、日々の生活習慣がこの病気になるリスクを高めることから、実は生活習慣病のひとつに数えられています。

 

■お口の中だけの問題ではありません!

お口の病気である歯周病、実は慢性的にかかっているとさまざまな全身の病気にかかるおそれがあることをご存知で
しょうか。歯周病と全身の健康との関わりは、長年国内外で研究されてきました。現在特に関連性が高いと考えられているのが以下の病気です。

 

それぞれの病気によって、歯周病がどう関わっているかは異なります。歯周病菌自体が直接病気の引き金になることもあれば、歯周病菌の起こす炎症が原因となって、他の病気に拡大することもあります。

今回は先ほど図で挙げた病気の中でも、日本人の死亡原因上位に入る二項目に絞ってお伝えします。

 

 

■歯周病菌の死がいと動脈硬化

血管が詰まる主な要因が「動脈硬化」です。脳の血管が詰まれば脳梗塞、心臓の血管が詰まれば心筋梗塞に繋がります。どちらも命を落とすリスクのある怖い病気です。

動脈硬化は血管の内壁にコレステロールが付着し、脂肪分が沈着することで起こります。そうしてできるお粥のようなかたまり(粥腫(じゅくしゅ))が厚くなると、血管を塞いだり、破れたりしてしまいます。破れたかたまりが心臓や脳の血管に達して血栓になり、脳梗塞や心筋梗塞を引き起こします。

このかたまりと同じ悪さをするものが、歯周病が原因となってできると考えられているのです。歯周病は進行すると、炎症を起こした歯ぐきから多数の歯周病菌が入り込み、血管の内壁に取りつきます。すると白血球がやってきて歯周病菌を食べ、その死骸が粥腫のようになって動脈硬化を起こすと想定されています。

実際に動脈硬化を起こした血管のかたまりから歯周病菌が検出され、ますますその関係が注目されています。

 

 

■歯周病菌と誤嚥(ごえん)性肺炎

誤嚥とは、食道を通って胃へと入るはずの食物や唾液が、誤って気管に入り肺へと達してしまうことです。誤嚥性肺炎は、食物などに含まれた細菌やウイルスが肺の奥にある「肺胞」で増殖し、炎症を起こすことで発症します(胃に入った細菌は胃酸で死滅します)。舌や口、のどの筋力が衰えて飲み込む力が弱っている高齢者の肺炎は、大部分がこの誤嚥性肺炎と報告されています。

食事のときに頻繁にむせてしまう方は、飲み込む力が弱っている兆候なので用心してください。

 

この時、お口の中の細菌が歯周病により増えている状態であれば、もちろん肺に入り込んでしまう細菌の量も多くなってしまい、誤嚥性肺炎を引き起こしやすくなります。専門家によるお口のケアを受けている高齢者は、肺炎の発症率や死亡率が低いというデータもあり、お口の衛生状態は感染症に直結することが示されています。歯周病の早期治療、毎日のケアで細菌の量を減らすことが、誤嚥性肺炎の予防にはとても大切です。

 

■歯周病菌が悪さをするのを防ごう

 

1.歯周病の治療はお早めに!

炎症が起きている歯ぐきは歯周病菌が体内に流れ込む入口になります。皆さんが転んだ時などにできる傷口と同じです。歯ぐきから血が出る場合はできるだけ早く歯科で治療し、歯周病菌が血液に入り込むのを防ぎましょう。

2.お口を清潔に保とう!

お口の中の細菌を減らすように、日常の歯みがきは時間をかけて丁寧に行いましょう。デンタルフロスや歯間ブラシも忘れずに!歯科衛生士がみなさんのお口に合ったケアの方法をお伝えします。是非お気軽にご相談ください。

3.定期検診はやっぱり大切!

歯周病はよほどひどくならないと痛みが出ません。更に急激には進行しないので本当に気づきにくい病気です。定期的にお口の中、歯の周りの組織のチェックを受けることが大事。少なくとも半年に1回は、歯科でメインテナンスを受けることをおすすめします。

 

■さいごに

いかがでしたか?

今回は脳梗塞・心筋梗塞、誤嚥性肺炎をピックアップしてお話しました。しかし歯周病との関連が疑われている病気はまだまだあります。関節リウマチ、菌血症、腎臓病、骨粗しょう症、皮膚炎などについても、研究が進められているところです。

最近では、歯周病の進行と医科の医療費の関係を表すデータも出ています。下のグラフが示すように、歯周病の症状が悪化している方ほど、さまざまな病気で医療費がかかってしまっているのです。

 

 

歯周病の予防や治療は、全身の様々な病気の予防や治療におおいに貢献することになります。定期メインテナンスをしっかり受け、健康な生活を送れるようにしましょう!

 

参考・引用

  • 特定非営利活動法人 日本歯周病学会 『歯周病と全身の健康』
  • クインテッセンス出版(株)nico 『2019年3月号8~P.21』
  • クインテッセンス出版(株)nico 『2019年8月号8~P.21』
  • 日本歯科医師会 テーマパーク8020 https://www.jda.or.jp/park/