歯科の豆知識

エナメル質形成不全とビタミンⅮとの親密な関係?!

「牛乳を飲まないと背が伸びないよ」と幼い頃に言われたことはありませんか?

現在でも骨=カルシウムのイメージは強く、お子さんが牛乳や乳製品を摂取できるように工夫されている方も多いと思います。それ自体が間違っているわけではありませんが、カルシウムだけではそれほど骨は丈夫にならないのです。

 

■なぜカルシウム単体だと効果が得られないのか

カルシウムは吸収されにくい栄養素だからです。

ライフステージや健康状態によっても吸収率は変化しますが、一般的な成人だと、効率よくカルシウムを吸収できる牛乳などの乳製品でも、含有量の約40%程度しか体内に取り込めません。
ほかの食品に含まれるカルシウムの吸収率はさらに下がります。
つまり、カルシウムを摂取しているつもりでも、その半分以上はからだに取り込まれずに排泄されてしまうのです。
なんだか非常にもったいない話ですよね。

■これを助けてくれるのがビタミンDです!

ビタミンDはカルシウムの吸収をサポートし、強い骨を維持してくれる重要な栄養素です。
ビタミンDが不足してしまうと、骨が軟化してもろくなる「くる病」(成人の場合は「骨軟化症」)を発症してしまう恐れがあります。

「でも、ビタミンDって自然につくられる栄養素では?」

「不足している人ってあんまり聞いたことがないような?」

と疑問に思われた方もいらっしゃるでしょう。

たしかに、ビタミンDは日光を浴びることによって皮膚で合成されますから、ほとんどの方は日光浴で必要分を補っていると思います。

しかし、紫外線の健康被害を考慮して日ごろから日焼け対策をしたり、コロナ禍で外出が制限されていたりすると、本来十分だったビタミンD量が不足気味になっているかもしれません。特に冬場や梅雨時期は日光からの恩恵を受けにくいので、より注意が必要です。

 

■乳歯のエナメル質形成不全って?

なぜこんな話をしているかというと、最近、このビタミンDが欠乏している人が増えてきているのではないかといわれているからです。その根拠となっているのが、「乳歯のエナメル質形成不全」です。

エナメル質形成不全というのは、歯の一番表面の組織「エナメル質」が何らかの理由でうまく形成されない状態のことをいいます。なんと、今は小学1~2年生の約5人に1人が「エナメル形成不全」と言われています。

エナメル質形成不全の歯は、歯の色が悪くなることに加え、むし歯になりやすく、むし歯になると進行が非常に早いなど、より一層ケアに気を付けなければなりません。

そしてこの乳歯のエナメル質形成不全は、乳歯がつくられる時期、つまりお母さんのお腹の中にいるときに、十分なビタミンDが供給されずに引き起こされているのではないかとされているのです。

先ほどお伝えしたように、昔に比べると直接日光に当たることを避ける女性は多くなっているでしょうし、食生活の変化もあってビタミンDが含まれる魚類やキノコ類を口にする機会も減っています。こうした背景から、母体のビタミンD不足が胎児に影響を及ぼし、結果的に乳歯のエナメル質形成不全を引き起こしていると推測されるのです。

実際に日本での「くる病」発症者数は近年増加しているとの報告もありますので、今まで以上にビタミンDの欠乏には注意する必要があります。

ここまでで、骨を維持するためにはカルシウムだけでなく、ビタミンDの存在が大切だとお分かりいただけたと思いますが、ビタミンDの役割はそれだけにとどまりません。

筋肉を動かしたり、全身に指令を送る神経の伝達を促進したり、免疫機能の向上にかかわったりと、私たちが健康に生きるために欠かせない役目をたくさん担っているのです。

幸いなことに、ビタミンDは他の栄養素とは違い、日光を浴びることで十分な量を合成できるため、気になる方は日光浴を定期的に行いましょう。

日焼けが心配…という方もおられるでしょうが、ご安心ください。

ビタミンDの合成は手のひらに日光を当てるだけでも行われます。夏場なら15分、冬場でも30分浴びれば十分効果は得られます。

■それでも日焼けが気になる方は、サプリメントを活用しましょう!

ビタミンDは体内に蓄積されやすい栄養素なので、過剰に摂取すると※高カルシウム血症を引き起こして危険ですが、適量であればサプリメントで上手に補うことができ、欠乏症の心配もいりません。

最近では、ビタミンDを付加した食品も多く販売されていますから、普段の生活に積極的に取り入れるのも一つでしょう。

※高カルシウム血症:食欲不振、体重減少、多尿、不整脈などの症状があらわれます。より重症なものでは、血管や組織の石灰化が起こり、心血管や腎臓に障害が起こります。腎結石の頻度が増す可能性もあります。

もしも今妊娠中、あるいはその予定がある方は、生まれてくる大切な家族のためにもビタミンDの存在を気にかけてみてください。日光にあたる時間をつくったり、魚類やキノコ類を食事に取り入れたりして、ビタミンDが不足しないように工夫しましょう。もちろん、カルシウムも引き続き忘れず摂取してくださいね。

 

 

 

 

監修: たけち歯科クリニック 管理栄養士 栗木千明
参考文献:クインテッセンス出版 nico 2020年8月P.35~P.42 
柏病HP ビタミンDの基礎知識(がんとの関連)より