歯科の豆知識

唾液は正義の味方だ!

 

レモンや梅干し、酸っぱいものを見ると自然と出てくる「唾液」。
なんとなく汚いイメージが強くないですか?

でも本当は、全身の健康に欠かせない「高性能な水」で、大切な存在なのです!

唾液とむし歯との関係も深く、食べ物を口に入れるとそれを栄養分とした虫歯菌が糖分を分解して酸をつくり出し、この酸が歯の表面から大切なミネラル成分を溶かし出します。(このことを「脱灰(だっかい)」といいます)しかし一旦溶け出した歯のミネラル成分は、唾液などによって表面の酸が洗い流されると、徐々に唾液中のカルシウムなどが再び取り込まれて元に戻ります。(このことを「再石灰化」といいます)私たちは食事の度に「脱灰」と「再石灰化」を繰り返しています。なので、間食が多く、いつも口の中に何か入っている状態を長時間続けていると、唾液の修復力よりも、溶け出すミネラル成分の方が多くなり、歯はだんだん溶けて穴があいて虫歯になってしまうのです。

 

■唾液の正体は血液?

唾液は透明な体液ですが、実は「血液」が唾液腺で唾液に作り替えられてできたものなのです。いきなり唾液として口の中に登場しているのではなく、いったん血液として生まれてきてから唾液に変身しているのです。

ではこの唾液、どのくらいの量が生産されているのでしょうか。唾液の分泌量は年齢とともに低下していく傾向にありますが、健康な大人で1日に約1000~1500ml作られているそうです。寝る前にはちょっと低下していくようですが、それにしても、なかなかの量ですよね。

唾液の成分は血液から移行してきたものだけでなく、唾液腺で変化するときに作られるものもあります。主な成分には

消化作用に必要な「酵素アミラーゼ」

粘膜保護作用のある「ムチン」、

自浄作用「ラクトフェリン」

抗菌作用や「IgA」、

PH緩衝作用、

再石灰化作用、

溶解、凝集作用など色んな成分と作用があり、それらが重要な役割をはたしてくれている、おかげで、お口のトラブルから私たちを守ってくれています。

唾液はかなりの実力派なのです。

 

■ドライマウスって?

目が乾く「ドライアイ」よりは知られていませんが、ドライマウスの症状を訴える人は確実に増えてきています。「口腔乾燥症」ともいわれる病気です。薬や病気などが原因で唾液の分泌が減ることをいいます。

主な症状としては、口の中がネバネバする、乾くので食べたり話したりしにくいなどですが、唾液が少なくなると本来の自浄作用が効かなくなり、口内炎や歯周病、虫歯、口臭などお口のトラブルにもつながっていきます。

唾液の分泌量が減ってしまう原因には加齢、病気、ストレス、不規則、喫煙、薬の副作用、脱水症状、口呼吸、など色々なことが考えられますが、自分では気づきにくい病気なので、

心配な方はまず、セルフチェックしてみてください。

【セルフチェックの方法】

5分間ガムを噛みながら出てきた唾液をすべて、メスシリンダーなど計量器に出してください。出てきた唾液の量が5ml以下だったらドライマウスの可能性があります。

 

■どうしたら唾液の分泌を増やすことができるのでしょうか

・まずは水分をしっかりとること

唾液は血液からできているので、血液のもとは水分なので、とにかく水分を補給
しましょう。お茶より水の方が良いです!

・良く噛んで食べること

咀嚼(そしゃく)すればするほどに唾液腺が刺激されて唾液が分泌されます。噛み応えのある食品や、噛む回数が増える食品を食べたりする工夫をしてみましょう。シュガーレスやキシリトール入りのガムを噛むのもOK。酸味のある食べ物を食べるのもいいでしょう。

・唾液腺をマッサージすること

顎下腺、舌下腺、耳下腺などを10秒ほど押さえたりマッサージして刺激しましょう。
(「シェーグレン」など場合によっては効かないこともあります)

顎下腺マッサージ                
手をグーにして、あごの下にはめるように置いて、後ろから前に動かす。

                                  

舌下腺マッサージ

親指を立ててあごの下を押し上げるようにする。

耳下腺マッサージ

耳の下より少し前を、指でゆっくり優しく回すように刺激する。

・食べ物や嗜好品で工夫する
アルコール、ニコチン、カフェインを減らし、納豆に多い「イソフラボン」やコエンザイムQ10のサプリなど抗酸化物質を取りいれてみましょう。

 

■同じ生産するなら質のいいものを!

唾液には「抗菌作用」のある物質がいろいろ含まれています。細菌やウィルスの侵入を防ぐ粘膜免疫「IgA(免疫グロブリンA)」抗体があります。これが多いと感染症予防にもつながります。分泌量を増やすことも大切ですが、質を高めることも有効です。

では唾液中の「IgA」を増やすにはどうすればいいのでしょうか?

それには腸の免疫力を高めることが一番効果的です。腸管の免疫と唾液線の免疫の状態はお互いに連動しているので、一見なんの関係もなさそうな腸と唾液ですが、とても密接な関係があるのです。

腸管の免疫力が高まれば「IgA」が増えます。そうすると唾液線の免疫力も高まるのです。

また、軽い運動は自律神経に刺激を与えるのでいいのですが、激しい運動や、過度のストレスがかかると「IgA」の量が低下することがわかっています。

腸の免疫力を高めるには腸内細菌のバランスを整えることが必要です。食物繊維が豊富な食品を摂取したり、ヨーグルトや乳製品などの生きた菌をふくむものを食べることもお勧めです。酢などもいいのですが、あまりに摂取しすぎると歯を溶かす「酸触症(さんしょくしょう)」になるので、注意が必要です。

 

■よく噛める歯がキーポイント

質の良い唾液を沢山出すためには、なんといっても「噛む」ことが重要になってきます。虫歯があったり、歯周病で歯ぐきが腫れて痛いなど、「噛めない」状態があると、きちんと噛めず「IgA」を増やすことができません。また、唾液が少ないと飲み込みにくさにつながることもあり、特に高齢者にとっては「嚥下障害」にも関わってきます。
「しっかり噛む、飲み込む」ためにも、悪い箇所は治療して噛めるようにしておくことも大切です。

 

歯の予防治療はもちろんですが、質の良い唾液などにより、お口の環境を整えることも、健康な口腔内を維持するためには見逃せません。

 

 

参考:引用 nico『 2018年6月号P.10~P.23』クインテッセンス出版(株)